+昔話
last order番外編SS
師匠(大木)と弟子(鉢屋)

(事件解決後、弟子入りを企む鉢屋少年)








「あー、今日もいねぇ」

古びた建物の、誰が気付くか分からないような扉を開けて階段を駆け上がって来た鉢屋は、がくりと項垂れた。
廊下の突き当たりの部屋を視界におさめればすぐ目につく。妙にアンティーク調なプレート。

「なーにがオーダーストップだ」

ち、と軽く舌打ちをして鉢屋は肩をおとし、下ろした鞄を引き摺るようにだらだらとその部屋へ歩み寄る。
次は勿論、はぁあ、と盛大なため息。

(…ここんとこずっとこれだ。)

鉢屋はそのプレートに輝く文字を睨み付け、指でなぞる。

(忌々しい。)

ぷいとその文字から目を逸らし鉢屋は扉に凭れ座り込んだ。
あの大嘘つきは今頃どこで誰を騙しているのやら。


(こうなりゃ待ち伏せだ)












(…あ?客……じゃ、ねぇな)

荷物を交換しに寄った事務所の入り口前。
茶髪の男子高生が座り込んで眠っていた。
顔は見えないが恐らく、自分はあいつを知っている。

階段を昇りきった時、カツンと革靴の音が廊下に響いた。
そいつはそれを耳にして弾かれるように顔を上げ、俺に声をかける。

「先生〜…」

遅い、とでも言いたげな、起き抜けの非難めいた眼差し。非難される筋合いなど
ない。


「先生じゃねぇよ」


大木はつかつか事務所に近付き、その男子高生に目もくれずに扉の鍵穴にレトロな鍵を差し込んだ。

「だって」

目線を合わせずにそいつは足元で、続ける。








…先生って呼ばれる奴にロクなのはいないって




「ね?」


つい視線を落とせば、
茶色い毛のそいつは、首を傾けニヤリと笑ってこちらを見上げていた。




「……それもそうだな」



そう教えたのは自分だ。

大木は込み上げた苦笑をため息に変えて、ドアノブをひねる。
どうやらこいつは、招かれざる客、のままではすまなそうだ。

つい先日自分が言った事を持ち出された上で先生、などと呼ばれては…


ああ畜生




(…生意気なガキだ。)







20110326

法度